Metaは2026年10月12日(米国時間)、AIモデル「Muse Wonder」と、その上位版「Muse Wonder Full」を公開しました。Metaはこの2つを「これまでで最も高性能なモデル」と位置づけ、個人の用事や仕事を代わりにこなすAIエージェント向けに作ったとしています。AIエージェントとは、指示を受けて調べものやアプリの操作などを何段階も自分で進めるAIのことです。TechCrunchは、Metaにとって初めての「フロンティアモデル」(各社の最先端に並ぶ水準のモデル)だと報じています。
Muse WonderとMuse Wonder Fullの違い
Muse Wonderシリーズは、2026年4月に公開した「Muse Spark」に続くモデルです。Muse Sparkは、Metaが9月に発表したAIエージェント「Muse」を動かしているモデルです。Metaによると、同社の大規模データセンター「Prometheus」で学習しました。TechCrunchによると、このデータセンターはオハイオ州にあります。
2つのモデルの違いは、性能と使える場所です。
- Muse Wonder:開発者向けのMeta Model APIと、コーディングエージェントのMuse Codeで使える
- Muse Wonder Full:より高性能な版で、Muse Codeの有料プランの一部でだけ使える。APIでは提供されない
Metaの開発者向け資料によると、Muse Wonderはテキスト、画像、動画、音声、PDFを読み取り、テキストで答えます。一度に扱える量(コンテキスト)は約100万トークンです。API版は現在「プレビュー」(正式版の前の段階)の扱いです。
モデルの重み(AIの中身のデータ)は公開されていません。Metaの資料では、Muse WonderはMetaのサーバー上で提供するモデルに分類され、手元のコンピューターで動かせる公開モデルは別系統の「Muse Glimmer」とされています。
特徴は「Active Memory」と「Active Focus」
Metaは、Muse Wonderの特徴として2つの能力を挙げています。
- Active Memory:会話をまたいで利用者についての大事な情報を覚えておき、いまの作業に関係する内容を自分から思い出して使う
- Active Focus:難しい目標でも、別のやり方を試したり、障害を乗り越えたり、新しい情報に合わせたりしながら作業を続ける。必要なときは確認を求め、重要な操作の前には利用者に確かめる
CNBCによると、MetaのAI部門トップのアレクサンダー・ワン氏は「現実の作業では必ず壁にぶつかる。止まってしまうのではなく、別の方法を試し、いつでも利用者に確認できるように訓練した」と話しています。
Metaは、法律、金融、医療の分野の知識や、長時間にわたるプログラミングの作業にも強いとしています。公式ブログでは、画像から3Dのゲームを作る例や、ブラウザーや複数のアプリを操作してランニングの計画を立てる例を紹介しています。
Metaが公表したベンチマーク
Metaは、Muse WonderをAnthropicのClaude Fable 5.1とClaude Opus 5.5、OpenAIのGPT-6 Astraと比べた結果を公表しました。原則として各モデルの最も深く考える設定(max)での比較で、Metaがまとめた表です。表の中には、Artificial Analysis、Vals AI、Surge、Datacurveなど外部の評価機関の数字、各社が公表した数字、Metaが自分で測った数字が混ざっています。
Muse Wonderシリーズが上回った主な項目は次のとおりです(Muse Wonder Full/Muse Wonder/Fable 5.1/GPT-6 Astra/Opus 5.5の順)。
- MemoryBench(長い会話の中の情報を覚えておく力。Meta独自の評価):85.5/85.6/79.0/81.4/81.5
- Harvey LAB-AA(法律の実務文書の作成):13.1/10.0/6.4/8.6/4.2
- DeepSWE 1.1(長時間のソフトウェア開発):79.0/78.8/67.4/74.1/74.2
- SWE-Marathon(さらに長いソフトウェア開発):57.5/53.1/45.6/42.5/46.3
SWE-MarathonのMuse Wonder Fullは、最大より一段低い「xhigh」の設定での数字です。また、GPT-6 AstraはCodex、Fable 5.1はClaude Codeで測った数字で、同じ条件での比較ではありません。
一方で、他社モデルが上回った項目もあります。
- HealthBench Pro(医療の質問への回答):62.3/60.5/62.1/65.3/65.6
- Terminal-Bench 4.0-AA(ターミナルでの開発作業):57.1/52.0/52.0/59.1/59.6
- ProgramBench(プログラムを一から作る):59.0/50.0/55.5/52.5/70.5
- OSWorld V2.1(パソコンの画面操作。部分点を含む評価):78.4/72.6/80.7/75.8/81.8
- GDP.pdf(PDFの資料をもとにした仕事):33.2/30.8/27.6/34.2/30.6
- Artificial Analysis Intelligence Index(総合指標):56/52/53/53/58
このうち、総合指標とProgramBenchでMuse Wonder Fullを上回ったのはClaude Opus 5.5だけで、Fable 5.1とGPT-6 Astraには勝っています。医療の質問への回答では、Claude Opus 5.5とGPT-6 Astraが上回りました。項目によって勝ち負けが分かれており、すべての分野で他社を上回ったわけではありません。
使える場所と料金
Meta Model APIでのモデルIDは「muse-wonder-1.0」です。Metaの料金ページによると、100万トークンあたりの料金は次のとおりです。
- 入力:4.00ドル
- キャッシュされた入力(同じ内容を繰り返し送る場合):0.20ドル
- 出力:20.00ドル
Muse Sparkには、送った内容をMetaがモデルの学習に使う代わりに安くなる「Contributor mode」がありますが、Muse WonderのAPIでは使えません。
Muse Codeは月額制のプランでも使えます。Muse Wonderは月5ドルからのすべてのプランで、Muse Wonder Fullは月50ドルの「Power Usage」と月200ドルの「Maximum Usage」で使えます。Muse Codeの有料プランでは、使える量が増える代わりに送った内容をMetaの学習に使うContributor modeが初期設定でオンになっており、設定でオフにできます。
AIエージェントのMuseでも、近くMuse Wonderが使えるようになり、有料プランの契約者から順に提供されます。CNBCは、Museアプリで使うには月20ドルか100ドルのプランへの加入が必要だと報じています。
日本での提供と注意点
日本での提供について、Metaの発表は触れていません。Meta Model APIの利用規約の一部である地域利用ポリシーでは、APIは「すべての国で提供しているわけではない」としたうえで利用できない国と地域を挙げており、日本はその一覧に含まれていません。ただし同じポリシーは、使えるのはMetaが利用を有効にした国と地域だけだとしており、実際に日本から契約して使えるかは公式に明記されていないため、確認が必要です。AIエージェントのMuse自体は、9月に米国で提供が始まり、その後カナダにも広がったと報じられていますが、日本での提供は発表されていません。
安全面では、化学・生物・放射性物質・核(CBRN)兵器やサイバー攻撃への悪用を防ぐ仕組みを、これまでで最も強化したとしています。モデルの説明資料によると、対策をしない状態では化学・生物の分野で高いリスクの水準に達する可能性を否定できなかったため、安全のための追加学習や不適切な使い方を見分ける仕組みを組み込み、対策後のリスクは「中程度以下」と評価したとしています。詳しい安全性の報告書は「近く公開する」としています。モデルの説明資料では、3Dなど空間を扱う推論は弱点として残っていること、18歳未満の利用は想定していないことも明記されています。
CoAI編集部の視点
Muse Wonderは、Metaが「覚えておく力」と「最後までやり抜く力」という、AIエージェントを実際の用事に使うときに効いてくる能力を前面に出したモデルです。Meta自身の比較では、記憶や長時間の開発作業で他社の最上位モデルを上回る一方、医療の回答や画面操作、総合指標などではClaude Opus 5.5などに及ばない項目もあり、得意分野がはっきりしています。
API料金は入力4ドル・出力20ドルと公開され、他社の最上位モデルと費用を比べやすくなりました。ただし現時点ではプレビューで、日本での正式な提供条件や、Museアプリへの搭載時期は明らかになっていません。9月のMeta Connectで発表した専用端末「Muse Charm」も含め、Museを日本で使えるかどうかの続報を待つ必要があります。
出典
- Introducing Muse Wonder and Muse Wonder Full: Frontier Models for Agents(Meta)
- Muse Wonder: A Frontier Model For Personal & Professional AI Agents(Meta AI Research)
- Muse Wonder Model Card(Meta AI Research)
- Models(Meta Model API)
- Pricing and rate limits(Meta Model API)
- Muse Code(Meta)
- Meta Model API Model Designation and Geographic Use Policy(Meta)
- Meta releases its first frontier model, Muse Wonder(TechCrunch)
- Meta debuts Muse Wonder AI model in latest test of users' willingness to pay(CNBC)
- Introducing Muse: The World’s First Personal AI Agent Built for Everyone(Meta)
- Meta’s Muse AI Agent Is Now Available in Canada(iPhone in Canada)