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AI普及で若手社員の雇用に深刻な影響 – スタンフォード大が実態調査 – 22〜25歳の若手労働者、AI関連職種で雇用13%減少

AI普及で若手社員の雇用に深刻な影響 – スタンフォード大が実態調査 – 22〜25歳の若手労働者、AI関連職種で雇用13%減少

2025年9月1日 CoAI編集部

生成AI(人工知能)の普及が労働市場に与える影響について、スタンフォード大学の研究チームが大規模な調査を実施し、衝撃的な結果を明らかにしました。ソフトウェア開発者やカスタマーサービス担当者など、AIが活用されやすい職種において、22〜25歳の若手社員の雇用が13%も減少していることが判明しました。

若手だけを直撃する雇用減少

エリック・ブリニョルフソン教授らの研究チームは、全米最大の給与計算会社ADPのデータを基に、数百万人の労働者の雇用動向を詳細に分析しました。その結果、驚くべき事実が浮かび上がりました。

ソフトウェア開発者では、22〜25歳の雇用が2022年後半から2025年7月までに約20%も落ち込みました。一方で、30代以上の同職種の雇用は安定しており、むしろ成長を続けています。

「まるで若手だけが狙い撃ちされているような状況です」と研究者らは指摘しています。この現象は、カスタマーサービス職でも同様に確認されています。

AIの「使われ方」で明暗が分かれる

興味深いことに、すべてのAI活用が雇用減少につながるわけではないことも明らかになりました。研究では、AIの用途を「自動化」と「拡張」に分けて分析しています。

「自動化」用途では、AIが人間の作業を完全に代替するため、若手社員の雇用が大幅に減少しています。一方、「拡張」用途では、AIが人間の能力を補完・向上させるため、雇用への悪影響は見られず、むしろ成長しているケースもあります。

この違いは、企業のAI導入戦略によって労働者への影響が大きく変わることを示しています。

ベテラン社員は影響を回避

同じAI関連職種でも、35歳以上の労働者の雇用は6〜9%成長しており、年齢による格差が鮮明に現れています。

研究者らは、この差の理由として「知識の質の違い」を挙げています。若手社員が主に教科書的な「形式知」に頼っているのに対し、ベテラン社員は現場で培った「暗黙知」を持っています。AIは形式知は得意ですが、経験に基づく暗黙知の代替は困難だということです。

全体の雇用は堅調、しかし若手に異変

米国全体の雇用情勢は引き続き良好で、失業率も低水準を維持しています。しかし、若手労働者に限ると2022年後半から雇用成長が停滞しています。

AI関連度の低い職種では年齢による差は見られませんが、最もAI活用が進んでいる職種では明確な世代間格差が生じています。研究者は「AI関連職での雇用減少が、若手全体の雇用成長の足を引っ張っている」と分析しています。

給与への影響は限定的

雇用数の変化とは対照的に、給与面での調整はほとんど見られませんことも判明しました。年齢や職種による給与格差の拡大は確認されておらず、短期的には賃金の硬直性を示している可能性があります。

労働市場の調整は、まず雇用数の変動として現れ、給与への影響は後から続くとみられます。

リモートワーク職種に限らず広範囲で影響

この研究では、在宅勤務が可能な職種だけでなく、現場での作業が必要な職種でも同様の傾向が確認されました。これは、単純な「業務のオンライン化」ではなく、AI技術そのものが労働市場に与える根本的な変化を示しています。

銀行の窓口係や旅行代理店、税理士など、対面サービスが中心の職種でもAIの影響が現れています。

今後への警鐘と希望

研究チームは「これらの傾向が将来さらに加速するのかを継続的に監視する必要がある」と警告しています。

一方で、過去の技術革命を振り返ると、IT革命などでも最初は雇用への懸念が高まりましたが、最終的には新しい雇用の創出と実質賃金の向上につながった歴史があります。AI革命でも同様のパターンをたどるかが注目されます。

既に一部の大学では、コンピューターサイエンス専攻から他分野への転向が増えているという報告もあり、若手労働者の間で適応が始まっている兆しも見えます。

調査概要

この研究は、AI時代の労働市場変化を実証的に示した初の大規模調査として、政策立案者や企業経営者にとって重要な指針となりそうです。

CoAI編集部

AI分野の専門ライター