中国のTencentでAIを開発する混元(Hunyuan)チームは2026年10月26日(中国時間)、同時通訳のAIモデル「Hy-SimulMT」を公開しました。話し手が話している途中から訳し始め、訳した文字と音声を出します。対応するのは中国語と英語の双方向で、訳した音声を話し手の声に似せて出す「声の再現(ボイスクローン)」にも対応します。モデルの重みは、商用でも使いやすいApache-2.0のライセンスで、Hugging Faceなどで公開しています。
Hy-SimulMTとは
Hy-SimulMTは、会議、講演、インタビューといった、その場のやり取りでの利用を想定したモデルです。音声を受け取りながら、続けて訳を出していきます。
同時通訳の難しさは、話し終わるのを待てば意味をつかみやすくなる一方、聞き手を待たせてしまう点にあります。Tencentは、訳の質と速さのバランスを重視して開発したとしています。評価に加わった広東外語外貿大学の通訳の専門家は、遅れを抑えるために先に訳し始め、あとから言い直す様子が、人間の通訳者の言い直しに近いと評しています。
性能
Tencentは、長い音声で同時通訳を評価するテスト「RealSI」で、他社のオープンなモデルや商用のAPIと比べました。
- 遅れの指標(StreamLAAL)は約3秒で、比べた中で最も短い。ただし、最初の音声が出るまでの時間とは別の指標
- 訳の質の点数(GEMBA)は、比べたオープンなモデルをすべて上回り、商用のAPI 5つのうち4つを上回った
- 短い音声の4つのテストでは、文単位で訳すRealSI-Sentenceで84.7と、表の中で最も高い点数だった
さらに、2026年9月以降にネットで公開された中国語と英語の音声18本(1本約6分)を使い、中国の翻訳資格CATTIの1級と2級を持つ通訳者6人と比べました。ソフトウェア、医療、法律、教育など10分野の講演や会議です。Tencentは、プロの通訳者と同じくらいの質で、多くの場合はより速く訳せたとしています。ただし、この比較は小規模で、今回の音声と条件に限った結果だと断っています。いずれもTencent自身による評価です。
話し手の声のまま訳す
Hy-SimulMTは、もとの話し手の声の特徴を残したまま、訳した言葉の音声を作れます。複数の人が話す場面でも、だれが話しているかを聞き分けやすくなるとしています。公式のページでは、3人が話す英語の音声を中国語に訳すデモなどを公開しています。
使い方と動作環境
公開されたモデルの名前は「Hy-SimulMT-30B-A3B」です。種類は次のとおりです。
- 訳だけを出すモデルと、もとの発言の文字と訳を一緒に出す「Interleave」版
- それぞれに、軽くしたFP8版と、GGUF形式の版
GitHubでは、動かすための「SimulInfer」と、学習用の「SimulTrain」も公開しています。SimulInferにはWebの画面があり、音声ファイルのアップロードやマイクからの入力で試せます。標準の手順では、NVIDIAのGPUを積んだLinuxのマシンが必要で、重みの大きさは約57GiBです。GGUF形式を動かすためのllama.cppへの対応は、本家にまだ取り込まれていません。訳を音声で出したり、声を再現したりするには、別に音声合成(TTS)の仕組みを用意する必要があります。
一般向けには、Tencentの翻訳アプリ「Hy Translate App」(Android・iOS)でも試せるとしています。日本から使えるかは、公式のページでは確認できませんでした。
CoAI編集部の視点
オンライン会議や講演の同時通訳は、AIの使い道として期待が大きい分野です。Hy-SimulMTは、遅れの短さと声の再現を、誰でも手元で動かせる形で公開した点が目を引きます。短い音声のテストでは、Qwen、Gemini、OpenAIなどの同時通訳の機能とも比べています。
ただし、公式に対応をうたうのは今のところ中国語と英語だけで、日本語での利用は想定されていません。中国語圏の取引先や英語の講演を聞く場面では試す価値がありますが、性能はTencent自身の評価が中心です。Tencentも、責任が重い場面や専門家の確認が必要な場面では、プロの通訳者が引き続き重要だとしています。他人の声を再現できる機能でもあるため、使う際は相手の同意をとるなど、扱いに注意が必要です。